Masuk脳内に浮かぶ彼の指使いに合わせながら、僕は自身に指を這わせる。優しくなで、時に激しく上下させる。自分で触れているはずなのに、彼に触れられているように感じた。錯覚なのは、わかっている。けれど、彼に出会う前の自慰よりも快楽を感じていた。
何度目かの絶頂の後、僕は荒い息のまま脱衣所に向かった。収まることを知らない下半身の疼きから、解放されたかった。
肌に擦れる布の感触が、完全には引いていない熱を呼び戻す。敏感すぎる感覚を恨めしく思いながら、僕は服を脱いで風呂場に入った。
熱いシャワーを頭から浴びていると、体内に残っている衝動がゆっくりと鎮まるのを感じた。シャワーの音を聞きながら、あれは事故だったのだと、心の中で自分に無理矢理、言い聞かせる。
ざわついていた心が落ち着きを取り戻し、僕はシャワーを止めた。その瞬間、背中を水滴が流れ落ちていった。背筋を這う相沢さんの指の感触が、一気に蘇る。
「ひぅっ……!」
思わぬ声が漏れ出て、咄嗟に口に手を当てる。
「くそっ……!」
悪態をつき、頭をかきむしる。シャワーだけでは、解放されないのか。
(……そうだ! ジムに行こう!)
こういう時には、体を動かすのが一番いい。
おろし立ての服に着替えた僕は、車で馴染みのジムに向かった。
ジムの受付で会員証を見せて、更衣室に移動する。持ち込んだ服に着替えて、トレーニングスタジオに入ると、いつもより利用客が多い。今日が土曜日だから、というのもあるのだろう。
「相馬さん、こんにちは! 今日は、どんなメニューにしますか?」
背の高い男性に声をかけられ、わずかに肩を震わせた。のどが締まり、息が止まる。
「……こんにちは」
僕は、何気ないふうを装って、にこやかにあいさつを返した。ぎこちない笑顔になってはいないかと、気が気ではない。でも、彼は気づいていないのか、僕の様子には触れなかった。
声をかけてきた男性は、インストラクターの九条《くじょう》さんだ。僕が初めてこのジムに入った時に、丁寧に教えてくれたのも彼だった。
そんな親切で優しい九条に、一瞬――ほんの一瞬だけ、相沢さんを重ねてしまった。声の高さも背丈も体躯も、性格さえ違うのに。相沢さんを忘れるために、ここに来たというのに。
僕は、九条さんに走りたいだけだと告げ、ランニングマシンが並んでいるエリアに行った。九条さんは、何かあったら声をかけてくれと言って、他の利用者のもとに歩いていく。
ランニングマシンには、数人の利用者がいた。でも、他の器具に比べると、人よりもマシンの方が多いと思えるほど空いていた。
人目につかないように、端にあるマシンを選んで走り始める。頭を空にして走っていると、体内に居座り続けていたどろりとした感情が、スーッと消えていくのを感じた。
これで、ようやく解放される。そう安堵した僕は、体力の限界まで走ろうと決めた。
けれど、それがいけなかった。足は、次第に重くなり、息が苦しくなってくる。
『……まだ、終わりじゃないぜ』
突然、相沢さんのまとわりつくような低い声が、耳の奥に響いた。
瞬間、腹の奥が何かを求めるように疼き出した。
「……っ!」
奥歯を噛みしめて、マシンの停止ボタンを押す。
(抗えないのか? 僕は……)
苦い思いを抱えながら、荒い息を整える。
「相馬さん。休憩と水分、ちゃんと取ってください。貴方は、集中しすぎる癖があるんですから、意識してくださいよ」
いつの間にかそばにいた九条さんが、険しい表情でペットボトルを差し出した。
「――っ! ……すみません、気をつけます。でも、よくわかりましたね。僕に集中しすぎる癖があるって」
自分でもあまり自覚していないのにと、九条さんにたずねる。
はにかんだ九条さんは、利用者をよく観察するのが仕事だからと言った。その言葉に、肌がざわざわとして落ち着かない。
「それじゃあ、帰ります」
九条さんとの会話を早めに切り上げ、僕はシャワールームに向かう。
熱めのシャワーで汗を流していると、空腹感を覚えた。そういえば、朝食を食べたきり、何も食べていない。
(……卵焼き、甘くて美味しかったな)
だしの効いた卵焼きが思い出された。優しげな相沢さんの笑顔が浮かび、僕は慌てて頭を振る。
どうして、こんなにも彼を思い出してしまうのか。忌々しく思いながら、美味しいものを食べて忘れてしまおうと気持ちを切り替える。
ジムから出て車に乗り込んだところで、ふと、篝火にはどんなフードメニューがあるのだろうと疑問に思った。よく訪れてはいるものの、今までフードメニューはチェックしていなかった。
確認するのは、後からでもよかった。けれど、どうにも気になってしまう。
「しかたがない、行くか!」
調査のためと自分に言い訳をして、一旦、自宅へと車を走らせる。そこから、徒歩で篝火に向かった。
バーにくり出すにはまだ早い時間帯だからか、周囲は静けさを保っていた。篝火に到着すると、扉には『OPEN』のサインプレートが下げられている。
(あ、よかった。開いてる)
僕は小さく息をつくと、扉に手をかけた。
「いらっしゃいませ」
店内に入ると、マスターの低く落ち着いた声と女性スタッフの明るい声が、同時に響いた。
僕は軽く会釈すると、カウンター席の奥に座った。
「珍しいですね。お客様が、この時間にいらっしゃるなんて」
と、マスターが声をかけてくる。
「ええ、ちょっと……ジムに行っていたもので」
僕は、詳細を省いて事実だけを告げた。さすがに、お宅のスタッフと一夜を過ごして揉めたなんて、口が裂けても言えやしない。
「最近、ジム通いしてる方、多いですよね」
どうぞと、女性スタッフがメニュー表を僕の前に差し出した。ポニーテールが似合う、人懐っこい笑顔が特徴的な美人という印象の女性だ。
僕は、彼女からメニュー表を受け取ると、当たり障りのない言葉を返すだけにとどめた。誰かと会話を楽しむ余裕は、今の僕にはなかった。
僕の心の内を察したのか、彼女は「ごゆっくり」と営業スマイルで告げて、仕事に戻っていった。
マスターも、いつも以上にそっとしておいてくれている。申し訳なく思う反面、とても気が楽だった。
メニュー表を眺めていると、誰かが隣の席に座った気配がした。それだけで、心臓が跳ねた。無意識に体が強張る。僕は、その気配を
触れられていないのに、肌がざわめき、尻の奥が蠢き出す。動揺を悟られないように、気づかれないように、浅い呼吸をゆっくりと繰り返す。
「佳晴さん。もしかして、俺に会いに来てくれたの?」
と、彼が明るく告げる。その声音に、朝食の時のような妖艶さは、まったくなかった。にも関わらず、言外に逃さないと言っているような雰囲気がある。
「……ここのフードメニューが、気になっただけです」
僕は、メニュー表に視線を向けたまま、素っ気なく告げた。
「相沢君、お客様の邪魔にならないようにね」
マスターは、相沢さんにそう釘を刺す。
相沢さんは「わかってますよ」なんて言っているけれど、僕にはどうしても信じられなかった。先ほどから、ねっとりとした視線がまとわりついてくる。
「それで? ご注文は?」
「……ここにいる限り、僕には指一本触れない。そう約束してくれませんか?」
視線を相沢さんに向けた僕は、感情を抑えた声で言った。ノーと言った瞬間に、店を出るつもりだ。
「わかりました。
相沢さんはあっさりと承諾して、恭しく頭を下げた。
何か、含みがあったような気がする。でも、気にしてなんていられない。
「それで、ご注文はいかがなさいますか?」
と、相沢さんにたずねられ、僕はメニュー表に視線を戻した。
いつも飲んでいる甘めのカクテルを選ぶ。けれど、これに合う食べ物がわからない。少し考えて、カクテルに合いそうな軽食を作ってもらうことにした。
「かしこまりました」
と、カウンター内へと移動する相沢さん。
厨房に声をかけたかと思うと、グラスや数種類の酒などを用意し始めた。
思っていなかった展開に、僕は面食らってしまった。
カクテルは、いつもマスターが作ってくれていたからだ。この店ではマスターだけがカクテルを作るものだと勝手に解釈していた。でも、どうやら違ったらしい。
相沢さんは、長めのグラスに準備した酒を入れていく。ずっと見ていられるくらい、手際がいい。
「お待たせいたしました。チャイナブルーです」
出来上がったカクテルを僕の前に置いて、相沢さんがそう告げた。
特徴的な鮮やかな青色が、とてもきれいだ。
続いて出されたのは、プロシュートが乗ったガーリックトーストだった。
「え、これ……このカクテルに合うんですか?」
驚いた僕は、思わずそう声を上げてしまった。
「ええ、意外と合うんですよ」
どうぞと、相沢さんに勧められる。
半信半疑ながら、ガーリックトーストに手を伸ばす。決して、彼の言葉に騙されたわけではない。
カリッとしたトーストの食感が、とても心地よい。バターのコクに、プロシュートの塩味と旨味がプラスされて、食べ飽きない美味しさだ。
咀嚼し、飲み込んだところでチャイナブルーに口をつける。一瞬、相沢さんと目が合った。優しく微笑む彼の頬が、わずかに色づいている気がする。弧を描いた口の端から、舌先がちらりとのぞいている。
「佳晴さん」
甘く低い声で名前を呼ばれ、僕は彼から目が離せなくなった。体が熱い。たぶん、アルコールのせいだけではないだろう。
彼は、口の動きだけで「飲んで」と命じる。
「――っ!」
直後、僕の下半身がどくりと脈打つ。その反動で、カクテルをのどに流し込んだ。
気まずさと恥ずかしさで、彼から視線をはずす。チャイナブルー特有の爽やかさが、口内を洗い流したはずだった。なのに、どろりとしたものが舌の上に広がる感じがする。
「意外と合うでしょ?」
と、相沢さんが告げる。
仕事用の声音で、ごく普通の事を言っているはずなのに、なぜか耳の奥に響く。
「そう……ですね」
話を合わせるように、僕は肯定した。でも、実際には、よくわからなかった。
僕達の会話が途切れたタイミングで、マスターが相沢さんに声をかけた。
「五番テーブルのお客様、お願いね」
手が空いてからでいいからと告げている。
どうやら、注文された商品を持っていく、というわけではなさそうだった。他に何かあるのだろうかと、少しだけ気になる。
(……でも、僕には関係ない)
そう心の中で切り捨てた。
会話は終わったはずなのに、相沢さんは、僕の前から動こうとしない。
「……行かなくていいんですか?」
僕は、率直にたずねた。
「ええ。今は、貴方との時間をすごしていますので」
と、断言する相沢さん。
その瞳に暗い光を認めて、僕はわずかに身をすくめた。怖かったわけでも、驚いたわけでもない。ただ、体の奥が震えるように反応した。
「そ……そういう店じゃないでしょ、ここ」
取り繕うように言葉を紡ぐ。
「それはそうですけどね。でも、俺は、あんたとすごす時間を大切にしたい」
相沢さんは、真摯な声でまっすぐにそう告げた。
「な、んで……!」
心臓を鷲掴みにされたような衝撃に、僕はそれしか言えなかった。鼓動がうるさい。
「何でって、俺が、佳晴さんの事を知りたいから」
と言って、彼は僕に手を伸ばしかけてやめた。
それが、なぜか僕の心を締めつける。自分が一方的に突きつけた約束なのに。
「まあでも、佳晴さんにつきっきりってわけにもいかないか。それに……ここじゃ、込み入った話もできないし」
相沢さんは、肩をすくめてそう言うと、僕の目の前に鍵を置いた。
それは、アパートの鍵だった。僕も同じ物を持っている。
「……どういう事ですか?」
僕が訝しげにたずねると、
「個人的に話がしたいんです。俺の部屋で」
と、彼は声量を抑えて告げた。
個人的な話がしたいだなんて、きっと僕を抱きたいだけの口実に決まっている。そんなもの、受け取れるわけがない。
丁重に断ろうと、僕が口を開きかけた時だった。
「相沢君、お待ちかねだよ」
と、マスターが相沢さんを呼んだ。
返事をした相沢さんは、「また後で」と言い置いて、他の客の方へと行ってしまった。
話は終わっていないけれど、仕事中の彼を呼び止めるわけにもいかない。僕は気まずさを抱えながら、彼の自宅の鍵を見つめる。
鍵には、キーホルダーの類はなく、銀色のリングだけがついている。
(失くしそうだけど、気にしないタイプなのかな?)
なんて、何気なく考えていた。
鍵が指先に触れて、僕は慌てて手を引いた。どうして手を伸ばしていたのか、よくわからない。まさか、僕は、本当は彼を求めているのだろうか。
翌日から、僕は篝火通いを再開した。扉を開くと、マスターと理沙さんが以前と変わらずに出迎えてくれた。もちろん、竜希も。いつもの席でチャイナブルーをオーダーすると、竜希がそつなくカクテルを作る。その姿が本当にかっこよくて、思わず見惚れてしまった。「お待たせいたしました」声とともに、鮮やかな青色のカクテルが僕の目の前に置かれた。「ありがとう。それにしても、たつ……相沢さんは、本当に手際がいいですよね」竜希と言いかけて、慌てて言い直した。「ありがとうございます。一応、これで生活してますので。それより、今、名前で呼ぼうとしたでしょ?」と、喉の奥で笑う竜希。「しかたないだろ? まだ、切り替えに慣れてないんだよ」声を抑えて抗議する。「でも、一線を画したいって言ったのは、佳晴さんですよ?」「それは、そうだけど……。なんか、ずるいよな。貴方は、どっちの時でも変わらないんだから」「俺は、こういうスタンスでやらせてもらってますので」ドヤ顔で宣う竜希に、少しだけ負けた気分になる。(でも、竜希が僕に沼ってるのは、事実だもんね)と、僕は密かにほくそ笑む。「佳晴さん? どうかしました?」小首をかしげる竜希に何でもないと言って、グラスを傾ける。爽やかな香りが、秘密を分け合う共犯者のように感じた。何か話したそうな竜希だったけれど、他の客からのご指名が入った。相沢相談所は、今日も盛況のようだ。竜希の背中を見送っていると、「お久しぶりですね」低く静かな声が聞こえた。振り向くと、いつの間にかカウンター越しにマスターがいた。「本当にご無沙汰してしまって……。その節は、お世話になりました」テーブルにつきそうなほど、深く頭を下げる。「いえ、私は何も。また、お客様がこうして来てくださった。それだけでは
「うん、美味い」と、竜希は満面の笑みで言った。ほっとして、僕もカレーを食べ始める。僕史上、最高の出来に仕上がっていて、思わずにんまりした。「自分で作るより、確実に美味いわ」竜希が、大絶賛で頬張っている。「褒められるのはうれしいけど、普通に作っただけだよ?」「謙遜すんなって。マジで美味いんだから。でもさ、じゃがいも、入れてないんだな」「ああ、うん。そういえば、今までじゃがいもを入れた事なかったかも」指摘されて、無意識にじゃがいもを避けていた事に気がついた。幼い頃から、カレーにじゃがいもが入っていないことが当たり前だったからだろう。「竜希は、じゃがいも入れる派なんだ?」「あー……気分によるけど、基本的には入れるかな」思案しながら、竜希が答える。「でも、入れない方が好きかも。このくらいの辛さが、ちょうどいいんだよね」「よかった。多めに作ったから、ルウだけでよければ、おかわりしても大丈夫だよ」僕が言うと、竜希は瞳を輝かせてうなずいた。「それにしても、佳晴さんって料理上手なんだな」「自炊するから、それなりにはね」「カレー以外も食いたいなー」期待するようなまなざしを向けられ、僕は「そのうちな」とはにかむ。まさか、こんなに好評だとは思っていなかった。今までは、自分の好きなように適当に作っていたけれど、今度からは竜希のためにも、もう少しきちんと作ろうと思った。「でも、本当に僕なんかが作る料理でいいの?」ふと、よぎった不安を口走る。「……なよ」それまでもりもりとカレーを食べていた竜希は、手を止めると沈んだ声でつぶやいた。「え……?」よく聞こえず、僕は少し身を乗り出すように聞き返した。「『僕なんか』なんて言うなよ。悲しくなるだろ。他の誰でもない、俺が、あんたの手料理を食いたいの!」
まどろみの中で、僕は眩しさを感じた。ゆっくりとまぶたを開けると、カーテンの隙間から爽やかな朝の光が差し込んでいる。起き上がろうとして、胸の上の重みに気がついた。隣を見ると、竜希が僕を抱き枕にしていた。(そういえば、竜希の部屋に泊まったんだっけ)と、気持ちよさそうな竜希の寝顔を見つめる。「ん……よしはるさん……」「ふふっ。どんな夢を見てるんだか」微笑みながら小さくつぶやいて、彼を起こさないようにそっとベッドから抜け出す。極力、物音を立てないように気をつけながら、着替えを済ませる。「ふぁ……あれ? もう、あさ……?」寝ぼけたような竜希の声が聞こえた。「おはよう、竜希。僕はそろそろ起きるけど、竜希はまだ寝てていいよ」言いながら、僕はベッドに近づいた。竜希の額に、軽くキスを落とす。「ん……冷蔵庫にサンドイッチが入ってるから、食べていいよ」竜希はくすぐったそうに目を細めると、ぽやっとした笑みを浮かべて言った。「サンドイッチ? もしかして、昨日の夜、先に寝てていいって言ってたのって――」僕が小首をかしげると、彼は軽くうなずいた。「朝から飯作るのって、面倒だったりするじゃん? 佳晴さんには、ゆっくり寝ててほしかったから」そう言って、竜希はもう一度あくびをする。「ありがとう、遠慮なくいただくよ」「うん。いってらっしゃい、おやすみぃ……」そう言うと、竜希はまぶたを閉じてすぐに寝入った。僕は小声でおやすみを告げると、愛おしい彼の頭を優しくなでて部屋から出た。「冷蔵庫は、と……」つぶやきながらキッチンをのぞくと、すぐ近くに黒い冷蔵庫が鎮座していた。扉を開くと、棚の中央にサンドイッチの皿があった。それとコーヒー牛乳のパックを取り出
「美味そう……」つぶやくと同時に、僕の腹が鳴った。「冷めないうちに食おうぜ」待ちきれないとばかりに、竜希がうながす。僕は何食わぬ顔でうなずいて、食卓についた。幸い、僕の腹の音は、彼には聞こえていなかったようだ。二人分のミートソースパスタとコーンスープからは、美味しそうな湯気が立っている。僕達はいただきますと言って、早速、食事に手をつけた。コーンスープのコクと甘味が、食べ応えのあるパスタにちょうどいい。「うん、美味い。さすがだね。短時間で、二品も仕上げるんだから」「サンキュー。でも、コーンスープは、市販のやつだよ。あの短時間で、パスタ作りつつ、ここまでなめらかにするのは、さすがに無理だって」と、謙遜する竜希。それでも、僕からしてみれば、すごい事には違いない。もし、同じ状況で僕が作ったら、二倍とはいかないまでも時間がかかると思う。「ごめん、佳晴さん」突然、竜希が頭を下げた。「え? いきなり、何?」理由がわからなくて、僕は小首をかしげた。「いや……明日、佳晴さん仕事だろ? なのに、無理させちまったから……」うなだれる竜希の姿は、どこかしょんぼりとした大型犬を彷彿とさせる。それが、何だかかわいらしいと思った。「ちょっとだるいけど、大丈夫だよ」だから謝らなくていいと言い置いて、僕はパスタを頬張った。「じゃあ、せめて、佳晴さんの家の場所を教えてよ」送らせてほしいと、彼は真摯に告げる。「……あれ? 言ってなかったっけ? 僕の自宅、このアパートの一階にあるんだ」「……へ?」素っ頓狂な声を上げ、竜希が目を丸くする。「なんか、ごめん」僕が謝ると、竜希は脱力したように微笑んだ。「いや……それなら、遅くなっても大丈夫だよな?」「え、いや、でも……明日、仕事だし……」「えー? いいじゃん。もう少し、佳晴さんと一緒にいたいんだって」
「挿れるよ」宣言した直後、相沢さんはゆっくりと僕の中に挿入ってきた。久しぶりだからか、内側から押し広げられる感覚がある。でも、痛みは、まったくなかった。「やば……久しぶりの佳晴さんの中、あちぃ……。このまま、溶けそう」言いながら、彼は僕の中に自身を沈めていく。「相沢さんの、おっきぃ……」切なかった腹の中が、少しずつ彼で満たされていく。言いようのない心のざわつきも、彼のぬくもりで溶かされていった。彼を根元まで迎え入れた直後、「あ゛ぁああ……っ!」僕は呆気なく達してしまった。腹の上に広がる白濁が熱い。でも、僕自身はまだ勃ち上がったままだ。「挿入れただけで、イッちゃった?」そう言って微笑む彼に、僕は荒い息をつきながらうなずく。「かわいい。でも、まだ終わりじゃないぜ? もっと、俺を感じてよね」と、相沢さんは緩い抽挿を始める。「な゛っ……!? だめ! イッた、ばっか……なのにぃ!」「だから、いいんだろ?」妖艶に言って、相沢さんはゆっくりと腰を動かす。全身を駆け巡る甘いしびれに、僕は喘ぎ悶える。「好きな人とのセックスって……こんなにイイもんなんだな」相沢さんが、恍惚な表情でつぶやいた。その言葉には、同意しかない。身も心も繋がる心地よさは、本当に久しぶりだった。「あいざわ、さん……んぁ……すきぃ……」「俺も好きだよ、佳晴さん」睦言を交わしながら、キスをする。舌を絡め、互いの唇を夢中で貪る。抽挿は次第に速くなり、僕も無意識に腰を動かしていた。「んっ……んふぅ……ぁっ&h
「ふ……っ……んぅ……ぁ……ん」甘い吐息が漏れる。我慢しようとしても、止められなかった。彼の舌が、ぬらりと僕の舌を絡め取る。かと思えば、舌先でちろちろと舐められる。僕もどうにか応えようとするけれど、上手くいかず彼のペースに飲まれてしまう。(相沢さん……)好きが溢れて、僕は彼の背に手を回した。頭の中がじんわりとしびれてきて、腹の奥が疼き出す。おまけに、足の力が抜け、立っているのがままならない。しがみつくように、手に力を入れた。「――っ!」彼の吐息を感じた直後、キスをしたまま体の向きを変えられ壁に押しつけられる。「ん゛ぅ……っ!」吐息まで飲み込まれそうな深いキスに、一瞬、息ができなくなる。執拗に舐め回され、舌が麻痺してくる。けれど、同時に敏感にもなっていて、彼の舌が動く度に僕自身が小刻みに動いてしまう。苦しくなって彼の背中を軽く叩くと、ようやく解放された。「っは……はぁ、相沢さん……どうしたの?」僕は息を整えながらたずねる。「悪い……。我慢してたんだけど、限界でさ。……嫌だった?」不安そうにたずねる相沢さんに、僕は首を横に振った。「嫌じゃないよ。むしろ、興奮した」少し恥ずかしいけれど、僕は素直にそう言った。以前、『店では、指一本触れるな』と、彼を突き放してしまった。あの時と今とでは、まるで状況が違う。でも、相沢さんは、ずっと約束を守ってくれていた。そんな彼をとても愛おしく思う。同時に、バーテンダー姿の彼に唇を奪われるという非日常感に欲情してしまった。「ふーん? じゃあ、これからは、店でも触っていいんだな?」確認するような口ぶりで、相沢さんが妖艶に微笑む。「あ、いや、今まで通り